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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)192号 判決

事実及び理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、本願考案と第一引用例及び第二引用例記載の考案との構成及び作用効果上の差異を看過した結果、本願考案と第一引用例記載の考案との対比において両者の相違点の判断を誤り、ひいて、本願考案をもつて第一引用例及び第二引用例記載の考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものとの誤つた結論を導いたものである旨主張するが、以下に説示するとおり、本件審決の認定判断は正当であり、原告の右主張は、理由がないものというべきである。

前記本願考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本件公報)を総合すると、(1)近時、木製又は鉄製のデツキに代えて、耐水耐腐蝕性があり、しかも強度もある合成樹脂製のデツキが盛んに使用されるようになつたが、従来のものは、ほとんど硬質合成樹脂の単体で、表面は平坦か又は単体表面に凹凸を形成したものを連結したものであるから、雨水や湯水が付着すると、表面に滑性を付与するので、滑りやすくなり、また、凹凸部に足先きが引つ掛かつて転倒する危険もあつたこと、また、従来、脚部となる基体を発泡スチロールのような軟質合成樹脂とし、その表面に硬質合成樹脂層を設けたものがあるが、このようなものは、基体の弾褥作用により硬固な表層がいたずらに躍動的揺動をするので、走行時踏ん張りがきかず、転倒する危険もあること、そこで、更に、デツキ全体を軟質合成樹脂とするものが考えられるが、これは、踏圧力により上面が脚部とともに下方に湾曲するので、これまた危険であり、到底安全なデツキとして使用することができないものであること、(2)本願考案は、叙上の従来のものの欠点を解消し、有効な滑り止め作用をなす安全なこの種デツキを提案することを目的ないし課題として、本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の記載に同じ。)のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成するとともに、組立てが極めて容易であり、かつ、強固に構成されることはもちろん、特に、デツキ基体を脚板と一体の硬質合成樹脂製とし、その上面の被体を表面に凹又は凸条を形成した軟質合成樹脂製とし、これらを一体的に結合したので、みだりに剥離切破することがなく、また、デツキ上を歩行すると、上面の軟質被体が下面の硬質基体に支持されつつ、軟質被体のみがクツシヨン作用をするので、確実に踏ん張ることができ、その凹凸条と相まつて程よいクツシヨンと滑り止め効果とを発揮し、したがつて、常に安全に歩行することができ、しかも、硬固な基体がデツキ全体の形体を保持するので、長く整然と架設し得るという利益をも具有するという作用効果を奏するものであることが認められる。他方、本願考案の実用新案登録出願前に日本国内において頒布された実用新案公報であることについて原告の明らかに争わない第一引用例に、本件審決の認定するとおりの技術事項が記載されていることは、原告の認めるところであり、これに成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)を総合すると、(1)第一引用例記載の考案は、豚を飼育する養豚ケージに用いるすのこに関するものであるところ、豚は、ケージ内で飼育されるに当たり、すのこが滑ると不安感を抱き、腰を降して立つのをちゆうちよし、したがつて、発育が悪く飼育の目的を達することができなかつたこと、(2)第一引用例記載の考案は、右の欠点を除去することを目的として、アルミニウム等の軽金属又は硬質プラスチツクで成形した断面門型の細長い本体1の上面2に軟質合成樹脂あるいはゴム等の柔軟性素材の滑り止め層3を設けた養豚ケージ用すのこ(実用新案登録請求の範囲の記載に同じ。)の構成を採用し、これにより所期の目的を達成したものであること、(3)実施例として、別紙図面(二)に図示するものが示されているところ、これは、本体1の上面2より左右両脚部4、4にわたつて滑り止め層3を層設したもので、本体1の引抜き成形と一緒に軟質塩化ビニール原料を本体上面に接着して同時成形したものであり、本体1の上面2の長手方向の左右を漸次低くして排尿の流れを良くすることができ、また、門型の本体1は左右両脚部4、4の下端に係止隆起条5、5を設けてフレーム6に固定した受枠7の切欠8に嵌合固着したものであり、本体1の上面2に柔軟な滑り止め層3を設ける叙上の構成により、爪が右の層に食い込み、滑りを完全に止め、豚に不安感を与えず、飼育を円滑に行うことができ、また、足や爪を損傷させることがないという作用効果を奏するものであることが認められる。

以上認定の事実に基づき、本願考案と第一引用例記載の考案とを対比考察するに、第一引用例記載の考案は、前認定のとおり、豚を飼育する養豚ケージに用いるすのこに関するものであるが、第一引用例記載の考案の目的、構成及び作用効果等についての前認定の事実によると、第一引用例記載の考案のすのこは、豚の飼育用にのみ特有のものではなく、一般のすのことしての機能をも有するものであるから、第一引用例には、一般のすのこの構造に関する技術的思想も開示されているものと認められ、また、第一引用例記載の考案のすのこは、前認定のとおり、断面形状が門型の細長い本体を並列状に連結したものであつて、本願考案のデツキと同様、床板としての機能を有するものであつて、本願考案のデツキと実質上同種のものと認めることができるから、第一引用例記載の考案を右のようなものと把握したうえ、本願考案と第一引用例記載の考案とを比較すると、両者は、本件審決認定のとおり、両側下面の長手方向に脚板を各一体に形成した硬質合成樹脂の基体の上面に軟質合成樹脂の被体を一体的に被着してなるデツキ単体の多数本を設け、これを並列に連結した合成樹脂製滑り止め付きデツキである点で共通しており、(1)軟質合成樹脂の被体の表面に、本願考案は、凹又は凸条を形成したのに対し、第一引用例記載のものは、右の凹凸条が形成されていない点、(2)デツキ単体を、本願考案は、順次その各脚板を組み合わせて連結するのに対し、第一引用例記載のものは、各脚板を受枠を介して連結する点で相違するものと認められるから、右各相違点について順次検討することとする。(1)相違点(1)について第一引用例記載の考案に関する前認定の事実によると、第一引用例記載の考案は、硬質プラスチツク成形した断面門型の本体1の上面2に軟質合成樹脂の滑り止め層3を接着したものであるから、人がこの上を歩行する場合には、上面の軟質合成樹脂の滑り止め層が足裏になじむように変形し、足裏と滑り止め層との間の摩擦抵抗が増大することは明らかであるところ、成立に争いのない乙第二号証(実公昭三五―一五九五一号実用新案公報)及び第三号証(実公昭四四―二七〇五五号実用新案公報)によれば、軟質合成樹脂被体の表面に滑り止め用の凹凸条を形成することが本願考案の実用新案登録出願前周知の技術事項であつたことが認められるから、右第一引用例記載の考案の本体1の上面2の軟質合成樹脂の滑り止め層3の滑り止め効果を確実なものとするため、右滑り止め層3の表面に更に右周知の凹凸条を形成することは、当業者であれば、極めて容易に想到し得るものというべきである。(2)相違点(2)について本願考案の実用新案登録出願前に日本国内において頒布された公開実用新案公報であることについて原告の明らかに争わない第二引用例に、本件審決の認定のとおり、長尺板体よりなる床板本体1の両側縁が下方に垂下されて脚部2、2が形成され、一方の脚部2の下端に床板連結溝3が形成され、他方の脚部2に前記連結溝に嵌挿し得る床板連結突条5を形成し、前記脚部2を順次組み合わせて並列に連結した合成樹脂製床板が記載されていることは、原告の認めるところ、本願考案と右第二引用例記載の考案とを対比すると、右第二引用例記載の考案の床板の脚部は、本願考案の脚板に相当するものと認められるから、第一引用例記載の考案のデツキ単体の連結手段に代えて、第二引用例記載の考案の床板の連結手段を適用し、もつて本願考案のように脚板を組み合わせて連結することは、当業者であれば、極めて容易に想到し得るものといわざるを得ない。そして、本願考案、第一引用例及び第二引用例記載の考案並びに周知の技術事項に関する前認定の事実によると、本願考案の前示作用効果は、第一引用例及び第二引用例記載の考案並びに周知の技術事項が奏する作用効果に比して格別のものと認めることはできない。してみれば、本願考案は、第一引用例及び第二引用例記載の考案並びに周知の技術事項に基づき当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認めるのが相当である。原告は、本願考案と第一引用例記載の考案とは、本願考案では、その被体4が、別紙図面(一)に図示されているとおり、その表面に、凹又は凸条、すなわち、細い筋状の凹又は凸起が基体1の長手方向に互いに平行して等間隔に形成されているのに対し、第一引用例記載の考案の滑り止め層3は、平板状であつて、本願考案の被体4とはその構成を全く異にする旨主張するが、本願考案に関する前認定の事実によると、本願考案の被体4は、原告主張の構成に限定されたものではなく、本願考案の要旨にみられるとおり、表面長手方向に凹又は凸条5群を形成した構成のものと認められ、他方、第一引用例記載の考案の滑り止め層3は、原告主張のとおり平板状のものであるとすれば、両者は、その点において構成を異にするものといわざるを得ないものの、右の滑り止め層3の表面に、本願考案の被体4のように凹凸条を形成することは、当業者であれば、極めて容易に想到し得るものであることは、前説示のとおりであるから、たとい、両者に右のような相違があつたとしても、右説示と同旨の本件審決の判断を左右するものではなく、したがつて、原告の右主張は、採用するに由ない。また、原告は、第一引用例には養豚用すのこについてのみ記載されており、デツキにまでは何ら言及されておらず、また、すのことデツキとは物品及び用途を異にする旨主張するところ、第一引用例記載の考案は、豚を飼育する養豚ケージに用いるすのこに関するものであるが、第一引用例には、一般のすのこの構造に関する技術的思想も開示されているものと認められ、また、すのことデツキとの一般的な相違はともかくとして、第一引用例記載の考案のすのこと本願考案のデツキとを対比すると、両者が実質上同種のものと認められることは、前説示のとおりであるから、原告の右主張も、採用することができない。更に、原告は、本願考案は、平面的足裏の人の歩行に何ら支障とならず、しかも、わずかな引つ掛かりにより雨中でも安全に歩行することができ、また、載置物も安定して置くことができ、更に、清掃する場合、同方向にくまなく容易に排水し清掃することができるという効果を奏するのに対し、第一引用例記載の考案は、その表面が特に雨中において滑りやすくなり、平面的足裏の人が歩行するとき転倒するおそれがあり、また、掃除をする際、ごみが四方に散乱しやすいものである旨主張するところ、仮に、本願考案及び第一引用例記載の考案が原告主張のような効果を奏するものであるとしても、本願考案、第一引用例及び第二引用例記載の考案並びに周知の技術事項に関する前認定の事実によると、本願考案の作用効果は、第一引用例及び第二引用例記載の考案並びに周知の技術事項が奏する作用効果に比して格別のものと認めることはできないから、原告の右主張は、結局、採用するに由ないものといわざるを得ない。更にまた、原告は、本件審決は、本願考案と第一引用例記載の考案との被体表面の凹凸条の有無に関する相違点について、何らの証拠も呈示せず、この点について入念に熟視考察することもなく、平らな面に凹又は凸条あるいは多数の凹凸部を形成して摩擦抵抗を増大し、滑り止めにすることは、例示するまでもなく周知の技術事項であるから、第一引用例記載の考案の軟質合成樹脂の滑り止め層表面に、更に滑り止め効果の向上を期して凹又は凸条を形成することは、当業者であれば極めて容易に想到し得るものである旨の誤つた判断をしたものであると主張するが、軟質合成樹脂被体の表面に滑り止め用の凹凸条を形成することが本願考案の実用新案登録出願前周知の技術事項であつたことは、前認定のとおりであるから、本件審決が右と同旨の周知の技術事項を証拠に基づかないで認定したことをもつて違法であるというを得ず、また、第一引用例記載の本体1の上面2の軟質合成樹脂の滑り止め層3の表面に右周知の凹凸条を形成することは、当業者であれば、極めて容易に想到し得るものであることは、前説示のとおりであり、したがつて、原告の右主張も、採用の限りでない。なお、原告は、被告は、殊更、凹凸部と凹凸条を付会しているか、あるいは混同している旨主張するが、たとい、凹凸部と凹凸条とが異なるものであつて、両者を同種のものとして列記することが誤りであるとしても、第一引用例記載の考案の滑り止め層3の表面に周知の凹凸条を形成することは、当業者であれば、極めて容易に想到し得るものであることは、前説示のとおりであるところ、右の誤りは、右説示と同旨の本件審決の判断を左右するものとは認められないから、原告の右主張もまた、結局、採用するに由ないものといわざるを得ない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

両側下面の長手方向に脚板2、3を各一体に形成した硬質合成樹脂の基体1の上面に、表面長手方向に凹又は凸条5群を形成した軟質合成樹脂の被体4を一体的に被着して成るデツキ単体6の多数本を設け、然してこれらデツキ単体を順次その各脚板2、3を組合せて並列に連結した合成樹脂製滑り止め付きデツキ。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

別紙図面(三)

<省略>

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